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キャリアについて

アメリカと日本の違いとして、医者がなりたい科になるための努力が全く違います。例えば、耳鼻咽喉科で言えば、アメリカの大学卒業した医者が耳鼻科になろうとすると、医学部の間に1年間ないし数年間かけて、耳鼻科の医局に入って研究をしなければなりません。なので、4年制の大学を卒業後、医学部一年生の時から臨床研究を始めることになります。その4年間の業績を評価され、進むことのできる科が決まります。聞いただけですが、3000人の募集のある内科と300人の募集のある耳鼻科とというような違いがあるとのことです。もちろん年収も違うようです。

さらに耳鼻咽喉科に入ったとしてもその先の自分のなりたい専門家になるために、レジデントの間も厳格な評価がされます。レジデントが終わった後に、一年から数年のフェローという期間がありますがそこでもまた評価。ということで医学部に入ってからなんと10年以上も常に評価されている時間が続きます。

例えば大学で鼻科を専門として働きたいと思った時は、鼻科のフェローになったとしても全米の鼻科のフェローが36人いる中で大学での枠は24名程度。今後もっと減っていく可能性があるとのことです。僕の隣の席に座っているヨルダンで医学部のライセンスを取得した先生の場合は、耳鼻科のレジデンシープログラムに入ろうとすると、なんと300人のうちの1枠あるか無いかという狭き門のようです。

こちらに来てとても強く感じることは、今の頑張りの先には明確なゴールがあるということです。逆にアテンディングという大学雇用のポジションを手に入れると、大学間での患者の取り合い(言い方が悪いですが)思いっきりシフトチェンジして臨床に打ち込むというような先生方も多くいて、その下に研究をしたい学生やレジデントたちがついて、その先生達と協力して仕事をするという形が主流のような感じがします。

僕のように42歳という年齢で慈恵医大での講師としての肩書きがあるにも関わらず、今後の自分の勉強ないし後輩達の指導のためにアメリカに留学に来るような人間は非常に稀のようです。必ず驚かれます。

確かに、なんのために頑張るのかということを明確化しないと続かないですよね。

ちなみに、日本では科を選ぶハードルは低いというかほぼ無いに等しいですが、その後しっかりと患者を治すことができる医者になれるのか、僕の専門で言えば、頭蓋底をしっかりと治療できる技術をもち、患者さんも日本から集まってくるような外科医になるまでの道のりはアメリカよりもはるかにハードルが高いと感じています。日本は北海道や沖縄からも本州までは数時間の飛行機で来れてしまいますもんね。

日本の先生方がどのような目先の目標を持って、アカデミアとして大学で臨床をやりながら臨床研究や基礎研究をやるのか?ということをしっかりと明確にしないといけないなと感じております。ただ単に研究マインドを持つと診療により興味を持てるとか、豊かな人生になるとか、本質ではあるけれどそんな漠然とした目標だとなかなか難しいんだろうな。

大村和弘