とてもホッとした出来事があった。
後輩を指導する際、私はさまざまな方法を使いながら、「やるのは自分自身だ」ということを伝えるようにしている。自分でやってできたことに喜びを感じられれば、それは確実にその人の力になる。
つい手を出して代わりにやってしまえば、その場はうまくいくかもしれない。でも、それでは後輩は伸びない。
ただ、自分でやるよりも、「相手に気づかせて行動させる」ことの方が、はるかに難しい。そこには上司である自分の引き出しの多さだけでなく、適切なタイミングも求められる。
先日、その引き出しの使い方とタイミングがうまく噛み合い、実際に行動に移してくれた後輩がいた。自分自身もそうだったように、こうした経験を通して、上司や先生方の愛情を力に変えながら人は成長していくのだと改めて感じた。
カンボジアでのこと。ある高校生が「ギターが得意です」と言って、現地にギターを持ってきていた。
ホテルのロビーで、引率者や生徒たちと1日の振り返りをしていたとき、その子が「先生の好きな曲は何ですか?弾けますよ」と言ったことで、初めてギターを持ってきていることを知った。
ホテルは貸し切り状態だったので、「せっかくだからロビーで弾いてみて」とお願いした。2日後には現地の高校を訪問する予定だったため、その練習にもなると思ったからだ。
「訪問のとき、何を弾くの?」と聞くと、「何を弾けばいいですかね?」という返答。内心、「何も準備していないのか?」と少し不安になる。
「何が弾けるの?」
「なんでも弾けます。」
「じゃあ、何を弾きたいの?」
「みんなで歌える曲がいいけど、わからないです。」
だんだん苛立ちがこみ上げてくる。でも、ぐっとこらえて一緒に曲を考えることにした。こんなふうに歌ったらどうかと、実際に口ずさみながら提案もしてみる。
最終的に「翼をください」に決めた。
生徒はすぐに携帯でコードを調べ、弾こうとしてくれた。しかし、いざ弾く段になると「みんな歌ってよ、歌ってよ」と不安そうに周囲を促す。
気持ちはわからなくもない。でも、最初からそう言われると、聴いている側は少し引いてしまうものだ。
誰かに歌ってもらいたいなら、まずは自分が気持ちよさそうに歌うこと。それが一番自然に人を巻き込む方法なのだと思う。そして、何より歌うのは自分である。他人ではない。そこがわかると人は強い。
大村和弘