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学会発表の練習

今月は僕ら鼻科を専門にしている医者たちの年一回の集いの場である日本鼻科学会がある。学会参加をするときは、大体3つの山場がある。一つ目は演題登録の時期である。抄録という自分がこんな発表をしたいという発表内容を提出する時期が半年前くらいにある。2つ目は予演会と言って身内に対して自分の発表を見せるタイミング(発表1ヶ月前あたり)。3つ目は発表本番である。この3つの山場のうち2つ目の身内に対して発表内容を見せるタイミングがおそらく一番しんどい時期である。身内だからこそのオブラートの無いアドバイスが山のように来るからである。

今はちょうど2つ目の予演会のシーズンである。僕ら慈恵医大は演題を提出する数も多いので身内の予演会といっても鼻班の中での会と医局全体の会と2つの山場がある。発表に慣れていない先生たちが臨床の時間が終わった後に頑張って発表を作っている。発表がよく練れていない、または作りこみが甘い場合は、その発表者だけでなく指導役の先生の評価も落ちてしまうので、誰も幸せにならない結果になるので自然と力も入る。最近は若手奨励賞というような賞レースになることも多いので、それも頑張るモチベーションになる。

働き方改革で、上に命じられて発表をする場合は仕事になるというような内容のものがあった。それを聞いて、上が下に命じて発表させてあげるだなんて、とても優しい上だと思ったことを思い出した。なぜかというと、学会発表の機会というのは、自分の臨床力をあげる行為にもなるからである。物事を論理的にわかりやすく説明するというのは、医者として必要な能力である。本来なら自分のためなのだから、自分でその機会にトライするべきなのに、上が命じるというのは親心である。

毎年たくさんの後輩の発表の面倒を見ているが、大体この3つの山場の前には自分も寝る時間がなくなるくらいのスケジュールになってしまう。発表を仕上げてくるのが大体下の人たちは一日前とかになることが多いので、届いたその日の夜中とかに何人ものプレゼンを見なければならなくなるからである。先日も10時間の手術を終え、そのまま後輩の発表指導で、終わったのは夜中3時すぎ。ちょうど終わったと思ったら、別の下の先生からラインで発表できたので見てくださいと。あいつも夜中まで頑張っているのだから、こっちも応えなければとそこから発表の添削。というような文脈で結局寝る時間がなくなる。

昨日医局員全体向けの予演会があった。僕は面倒を見ている先生たちの発表を動画で撮りながら上手く発表できるか?できたとしたら、他の先生たちの評価はどうか?など子供の発表会を見ているような気持ちでいる。発表が無事終わった下の先生たちも、本番はまだだけれど、2つ目の山場を終えて少し清々しい顔をしている。僕はこの顔を見るのが好きだ。あとはプレゼンテーションの練習をしてもらい、発表を楽しんでほしいと思っている。

若いうちは冒頭で書いたように自分の評価のために、とか指導してもらっている先生の顔に泥を塗らないようにとかそんなモチベーションで頑張っている人もいるのかもしれないけれど、自分が頑張って集めた臨床データを、頑張って作ったプレゼンテーションを、同じ専門家に対して発表して、そのことで他の先生たちの臨床が少しでも変わったり、世界が良くなることを身をもって経験できる医者は、アカデミアとして本当に幸せな時間の中にいる。

本番が楽しみだ。